つまらないものですが、これ、先日旅行したときのお土産、よろしかったら……。
日本語ネイティブであれば、こんな言い回しを一度や二度、耳にしたことはありますよね。でも、思ったことはありませんか?
「……つまらないものならいらん!」
この「つまらないものですが」という前置きは、日本語ならでは。一体、いつからはじまった言葉なのでしょうか?
非ネイティブには難しい建前と本音
この、日本人がごく普通に使う「つまらないものですが……」という言葉。中には自分自身は使ったことがないという人もいるかもしれませんが、それでも本当に「つまらないもの」をもらったと解釈する人は少ないですよね。
つまり、「つまらないものですが……」は当然、本音ではありません。
本当にそんなものをあげていたとしたら、かなり失礼……。
でもこれは、日本語を母語としない日本語学習者(日本語を母語としない人)にとっては非常に難しい独特の言い回しになります。
事実、日本人であってさえもその正しい意味と由来について、知っている人はそう多くありません。この「つまらないものですが」というフレーズは、新渡戸稲造の「武士道」という文献に書かれていたものが語源だとされています。
いまでこそやや時代遅れにも感じられる表現ですが、「武士道」という名のとおり、日本ならではの奥ゆかしさと謙虚さ――「大和魂」が隠された言葉だったんですね。
学問としての日本語に興味がある人は、以下の記事も一緒にどうぞ。
日本人ならではの美徳【使い方も】
先述したことからもわかるとおり、「つまらないものですが……」というのは日本人特有の奥ゆかしさが詰まった大和言葉です。つまり、(皮肉ではなく)日本人が得意とする謙遜する言葉のひとつ。どんなときに使うのが正しいのでしょうか?
へりくだって謙譲する
「つまらないものですが……」
この一言でまとめられると、「つまらないものならいらないんだけど」「じゃあもっとちゃんとしたものちょうだいよ」とつい皮肉を言ってしまいたくなるものです。
でも、実際のニュアンスはちょっと違います。
「つまらないものですが……」の一言には、「(私は良いと思ったのだけど、私よりずっと素敵なあなたには気に入ってもらえるかわからないので、あなたにとっては)つまらない(かもしれない)ものですが……」という括弧書きがあるんですね。ずいぶんと長い心の声です。
自分の位置を下げる(へりくだる)ことで、相手を持ち上げる。カテゴリーとしては謙譲語と一緒です。
ゆえに本来は、目上の人や近所の人など、自分がへりくだってしかるべきの相手に対して使うのが一般的といえるでしょう。
現在ではあまり耳にしない
ただし、最近ではあまりこんなフレーズも耳にしなくなりましたよね。
それはおそらく、グローバル化が進んだことにより「そこまでへりくだる必要はあるのか」「さすがにやりすぎではないか」という考えが浸透しつつあるから。
中にはもはや悪いイメージさえ抱いている人もいるので、相手をしっかり見極め、使い時には注意するほうがいいかもしれませんね。
最近ではNGパターンも
「つまらないものですが……」と言われて、本当に「つまらないものをもらってしまった!」と思う人はそう多くないでしょう。でも、良い気持ちがしない人が一定数いることも事実。
確かに、響きとしてはあまり良くありませんよね。
例えば、「つまらないものですが……」とどう考えても高級なお土産を手渡されたらどうでしょうか? 人によっては嫌味に感じるかもしれないし、機嫌を損ねてしまうかもしれません。
例えば、海外土産にこんなのを近所のマダムから「つまらないものですが」ともらったらどう? 悪気がなければないほどに「どこがつまんないの?」と思ってしまいそう……。
それならもっと自分も相手も気持ちよく、素直に「どうぞ」「ありがとう」と言い合えるフレーズを身に付けておいたほうが安心です。
「つまらないものですが」は言い換えられる?
「つまらないものですが……」はすでに使い古された表現にも感じられますが、それでは他に適した言い回しはあるのでしょうか?
大したものではありませんが
これはどうですか?
「つまらないものですが……」とフレーズを置き換えただけなので、耳馴染みがあるといえばあるかもしれませんね。ただし、あまりニュアンスにおける変わり映えがしないので、やはり「大したものじゃないならいらないわ」と不快に感じる人は少なからずいるでしょう。
好みに合うかわかりませんが
先述した、括弧書きの「(私は良いと思ったのだけど、私よりずっと素敵なあなたには気に入ってもらえるかわからないので、あなたにとっては)つまらない(かもしれない)ものですが……」という含みを持たせに持たせまくった表現が廃れつつあるのは、欧米的、西洋的な考えを持つ人が増えてきたことが要因のひとつ。
単刀直入に「これ、お土産です。どうぞ」と手渡せるのであればいいかもしれませんが、日本語特有の建前と本音の世界で育ってきた人間としては、やはりなにかしら前置きをしておきたくなってしまうものです。
そんなときは、「気に入ってくれたらいいな」という気持ちを込めて、例えば「好みに合うかわかりませんが」「お口に合うかわかりませんが」「ご趣味に合うといいのですが」とあくまでもポジティブに伝えてみるのもひとつの方法です。
「つまらないものですが……」と言ってしまうと、言葉の美しさ以前の問題として、やはりどうしてもネガティブなイメージが付いてきますからね。
ほんの気持ちです
余分なフレーズを付け足して相手の気分を害する可能性があるぐらいなら、「これはあくまでも私の気持ちです」と好意を示してみましょう。
ただ、「ほんの気持ちです。お土産に、どうぞ」と口語で言うのは少々不自然な感じもしますよね。
悩んだときには、そっと手紙を添えて手渡してみるのもいいかもしれません。なにをするにもパソコン作業で完結してしまう現代だからこそ、心のこもった手書きのメモが入っていたらうれしい気持ちにさせてくれます。
>>>手書き(ペン字)に自信がなくても大丈夫!そんなときはスマホとパソコンで資格学習
よろしければ
なにごとも、シンプル・イズ・ザ・ベスト。
日本では本音と建前の使い分けを美徳として考える風潮がいまだ強く根付いていますが、それを苦痛に感じる人も少なからずいるはずです。
確かに日本語は複雑かつ、まさに「取り扱い要注意!」な一面もある言語であることは間違いありません。
でも、難しく考える必要はないんです。要は、正しかろうが間違っていようが、相手を傷付けなければいいだけの話なんですから。
言語は生き物。
時代によって廃り流行りがあり、普遍的なものではありません。
だからこそ、正しく使うのが一番ではありますが、まずはややこしく考える前に「相手の気持ち」になって考えてうまく使いこなせるようになりましょう。
正しい日本語にとらわれすぎるあまり、相手の気持ちを置いてけぼりにしないようにね!
大事なのは相手に不快感を与えないこと
言葉遣いを気にするあまり、相手に不快感を与えていては本末転倒もいいところです。
まずは相手の気持ちを考えること。歴史ある正しい日本語を使ったからといって、必ずしも相手が喜んでくれるとは限りません。
ただし、賛否両論が極端に分かれる以上、「つまらないものですが……」は決して無難な言葉とはいえなくなってきています。
とはいえ、日本語ならではの美しい文化が存在するのも事実。日本語の美について深く知りたい人は、こちらの本をおすすめします。
※上記の情報は2020年6月時点のものです。
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参考文献:
– livedoor NEWS「「つまらないものですが」は使わない!? – 言い換え表現も【ビジネス用語】」
– 英語部「「つまらないものですが」の意味と使い方、返事、語源、言い換え、英語表現」